desertTalk[0]
デザートトーク(全3篇)
DesertTalk
(ボカロ作品3作目「デザートトーク」にまつわるお話です)
無機生命体『10-d』にロディと言う名前が与えられたのは、彼がとあるHumanoidと出会った頃の話だった。
ロディは暇だった。とくに目的のない時間を過ごすことに飽き、退屈しのぎに文明を探す旅を始めた。これまでに13の星を探索したが、いずれも重力や気温の条件がまるで駄目だった。生命体に遭遇することはなく、ロディは早くもこの宇宙に生命体がいない可能性を考えた。
14回目の着陸。ロディは端から大した期待などしていなかったが、それでも辺り一面の砂漠を見て落ち込むことは可能だった。
白い立方体の探査機を起動し終えたところで、ロディは宇宙船内に戻り、60日間のスリープモードに入った。付近の調査が済むまで、砂の地平を眺める以外にやることなどなかった。
60日が経っても探査機はロディの元に帰らなかった。ここまで調査に時間がかかることは珍しかった。信号が途絶えていないことを確認すると、ロディはさらに時間を30日進めることにした。
着陸後78日目。探査機はこれまでにない成果を手土産にロディの待つ宇宙船へと向かっていた。この星の環境は過去最良だった。『”10年の夜”の後に”24年の昼”が来る』という残念な事実を踏まえても、この星を探索する価値は十分にあった。
驚くべきことに、探査機の上部には生命体がくっついていた。
ロディの眠る船内までぴったりとくっついてきた生命体は、船の出口が閉まって出られなくなっていた。船のコンソールをいじっても出口はびくともしなかったし、探査機はロディがスリープモードから復帰するのを律儀に待っているだけだった。生命体は他にも色々と試したが、ロディに砂をかけてみたところで彼が目覚めたため、ひと悶着の後にロディによって拘束されてしまった。
突然の奇襲に反省点はあるものの、ロディは生命体の発見を喜ぶことができた。拘束している分には無害のようだったので、この生命体について調べあげることにした。もしかしたらこの星には共存可能な文明があるかもしれなかった。
この生命体は奇しくもロディと同じ類の無機生命体に見えた。身体の主な構成要素はプラスチックと複数の金属。身丈がロディより一回り小さく、なぜか右足が左足より長いこと以外、見た目の特徴もさほど変わりなかった。右腕の肘と手首の間には1筋の線があり、ぼんやりと青く点滅している。その線に触れると光は消え、代わりにホログラムが浮かび上がった。
どうやらこの文明には文字が存在するらしいが、ロディにはさっぱり理解できなかった。
うめき疲れた生命体は目を閉じておとなしくなった。右目が完全には閉じないようだった。
ホントのことを言うとね、そこにいる箱型ロボ……? 移動手段によさそうだったからちょっと乗せてもらおうと思って
生命体はすぐに口を開くようになったが、ロディにその意味が通じるようになるまで3日を要した。生命体の名は『リーズ』、話す言語は『E言語』というらしい。友好的な立場を理解して、ロディはリーズの拘束を解いた。リーズはあっけらかんとした様子で自分自身とこの星について話し始めた。
リーズは西に向けて一機移動していた。目指す先には街があるらしい。道中で遭遇した探査機は調査を終えて西へ向かっていた。試しに乗っかってみたところ、機体の移動速度は落ちたが自分で歩くよりも速かったという。探査機の到着が遅れた原因だった。
ちょっと退屈だったから、3日間くらいスリープしたらここについちゃった
……なるほど。次にお前が眠っているところを見かけたら砂をかけてやる
おお……
……なんだよ。
気持ち悪いな
覚えたてのE言語で悪態をつくロディに、リーズは驚いていた。E言語はロディの知る200近い言語の中でも群を抜いて複雑だったが、習得するのは造作もなかった。
ひとしきり事情が分かったところで、話題はロディの生い立ちに移った。
故郷の言語をすでに忘れた話、10回目の着陸で死にかけた話、その他数時間にわたる武勇伝を聞かされたリーズは、飽きる様子もなく終始興味津々の表情を浮かべていた。
で、たどり着いたのがこの星だったってわけ。
この星は最高さ。文明がある。
……誰かさんの奇襲さえなければ素直にこの星を愛せたっていうのに
この機体は皮肉しか言わないのか、とリーズは思ったが、ロディの表情を見るに嬉しそうだったので良しとした。
ロディは珍しく上機嫌だった。溢れ出る話のネタは尽きることを知らない。自分が浮かれていることを自覚し始めたころ、ロディは思い出したように言った。
……お前、なんでそんなに砂だらけなんだ。首を振るたびに俺の船を汚してる。
砂の地面に潜り込んで寝泊まりするのが好きなのか?
うん
は?
いや、砂嵐で部品が壊れちゃうからさ。視覚ユニットなんか特にね
リーズの右視覚ユニットにはヒビが入っていた。
ただでさえ前の『24年の昼』で故障寸前だったのに、飛んできた破片のおかげで見事ご臨終。残った左目がやられるくらいなら、目をつぶって砂に潜った方がいいに決まってる
リーズが街を目指す理由は、故障した身体の修理だった。リーズが話す命がけの生活は、ロディをいとも簡単に驚かせた。
リーズの目はもうすぐ見えなくなる。『24年の昼』の容赦ない日差しから逃げるように、この星の自転に合わせて歩き続けてきた。常に『10年の夜』にとどまらなければ、恒星の光によって今度こそ視覚を奪われる。歩き続けて数十年、この星の太陽はまもなくリーズを視界にとらえる。船の窓から覗く空はほんのり明るい。
リーズの寝ぼけたような表情に恐怖は感じられなかった。それは、リーズの長い旅がもうすぐ終わりを迎えることを意味していた。会話の裏で、ロディは日の出までの時間を計算した。残酷な事実は、この星に長く住んでいるリーズの方がよく知っているはずだった。
あと、私にはLI-Zっていう名前があるから。知らなかったでしょ?
慣れない皮肉は言うもんじゃない
はいはい。じゃあ名前で呼んでくれるお礼として、こっちもそうする
皮膚に解像度の高い触覚機能を搭載していないロディには、その感覚が『こそばゆい』と表現されることをうまく理解できなかった。
(続く)
中篇☟
コメント